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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1545号 判決 1985年12月26日

控訴人

新日本実業株式会社

右代表者代表取締役

飯田正孝

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

奥山剛

被控訴人

共積信用金庫

右代表者代表理事

森岡謹一郎

右訴訟代理人弁護士

深田鎭雄

石渡光一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「1 原判決中被控訴人に関する部分を取消す。2 被控訴人は控訴人に対し八一四三万八六四九円及びこれに対する昭和五四年二月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加するほかは原判決事実摘示中控訴人と被控訴人に関する部分と同一であるから、その記載を引用する(ただし、原判決一四枚目裏八行目「割引」を「割印」と改める。)。

1  控訴人の主張

仮登記権利者が不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項に基づき登記上利害の関係を有する第三者に対し本登記の承諾を求められた第三者は仮登記権利者の本登記をするのに必要な実体上の要件の具備の有無すなわち仮登記権利者の所有権取得そのものを争うことができるだけであつて、仮登記権利者の所有権取得につき本登記の欠缺を主張することはできないのであり、仮登記権利者はその所有権取得につき本登記なくして登記上利害関係を有する第三者に対抗することができる。したがつて、控訴人は本件建物について所有権移転請求権仮登記を有するだけで本登記を有しなくとも、その所有権取得を被控訴人に対抗することができ、本件建物の競売手続において被控訴人が根抵当権者として交付を受けた八一四三万八六四九円は所有者たる控訴人が交付を受けるべきものであつたから、被控訴人の右金員の受領は法律上の原因を欠くものであつて、右金員を不当利得として控訴人に返還すべきである。

2  被控訴人の主張

控訴人の右主張は争う。

3  証拠<省略>

理由

一当裁判所は、控訴人の被控訴人に対する本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは原判決の理由中控訴人と被控訴人に関する部分と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決二二枚目表末行「同唯野静」を「同唯野静枝」と改める。

2  同三〇枚目表八行目「甲第一ないし第四号証」を「甲第一、二号証、原本の存在については争いがなく、その成立については原審における原審相被告柳田勇四郎本人尋問の結果(第一回)によりこれを認める甲第三、四号証」と改める。

3  同三一枚目裏八行目「その後、」の次に「原審相被告株式会社ストーク・ジャパン(旧商号、蓮井総業株式会社)の関係で」を加える。

4  同三二枚目表三行目「光義の供述」の次に「並びに弁論の全趣旨」を加える。

5  同三二枚目裏三行目「昭和五四年一月一五日」を「昭和五四年一月一九日」と改める。

6  控訴人は、仮登記権利者はその所有権取得につき本登記がなくとも登記上利害の関係を有する第三者に対抗することができ、控訴人の所有権移転請求権仮登記より後順位で根抵当権設定登記を経由した被控訴人が配当金を受領したのは、法律上の原因なくして利得し控訴人に損害を与えたものである旨主張する。しかし、本来仮登記はこれに基づく本登記がされた場合に本登記の順位を保全する効力を有するにとどまるものである。不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項によれば、仮登記権利者は、本登記の条件が成就すれば、仮登記のままで登記上利害の関係を有する第三者に対し本登記をするために必要な承諾を求めることができるものと解され、仮登記はその限度において一種の対抗力を有するともいえるが、これはあくまで仮登記の順位保全の効力を維持する必要上その限度において認められたいわば形式的な対抗力にすぎないのであつて、仮登記権利者が、仮登記のままで、登記上利害の関係を有する第三者に対し、所有権の存在を前提として競売代金の自己への交付を求めるなど、実質的な対抗力を主張し所有権の内容の実現を図ることはできないものと解するのが相当である。そして、本件建物につき控訴人のため昭和五一年一二月一一日受付をもつて昭和四八年三月二〇日、売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記が経由されていたところ、控訴人は、競落された本件建物の代金交付期日である昭和五四年二月一五日まではもとより、現在に至るまで本件建物につき右仮登記に基づく本登記手続をしていないこと、右代金交付期日当時本件建物につき被控訴人のため昭和五二年一月一三日受付をもつて極度額二億五〇〇〇万円の根抵当権設定登記が経由されていたこと、本件建物は、控訴人の仮登記よりも先順位で抵当権設定登記を経由していた訴外総和実業株式会社の任意競売申立により、昭和五二年六月一六日競売手続開始決定がされ、被控訴人が競落によりその所有権を取得したことは、前記のとおりである。よつて、控訴人の右主張は、採用することができない。

二そうすると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川添萬夫 裁判官佐藤榮一 裁判官石井宏治)

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